亦又太心:あなたは怖くはないのですか? わたくしが何処の誰かも知らず あなたはお優しい方です 私はそれだけで 十分でございます わたくしも十分だ あなたさえ側にいてくだされば 早くに母を失い 愛に飢えた子供時代を送られた源氏の君は 今でも愛を求めてさまよう一人の童 その童の心を夕顔の君は 優しく包んで差し上げたのです そうか、そうか われは童か 何を仰っているのです 父上? でどうなるのか、その夕顔と源氏の行く末は?夕顔の君のお命を奪うこととなります ほう
亦又太心:寂しいことをおっしゃいます行かせない 誰にも渡さない 惟光 あの花は何という花だ 夕顔ですよ 人知れず夜に咲き 人知れず萎れていく 哀れな花です 一房持ってまいる ほお これは美しい 心あてに それかとぞ見る白露のひかりそへたる 夕顔の花 あなたはもしやお噂に高い 光の君ではないのですか? これは あなたの肌を傷つけはしませんでしたか? 爪がこんなにも伸びておりました いいえ、あなたは冷たくはなかったですか? 夏ですのにあんまり冷えてしまったので こっそり温かめていたのですよ あなたの温もりで もっとこちらへ もっと暖めて差し上げましょう
亦又太心:源氏の君が貴婦人との評判が高い御息所のお相手となられたことは もっぱらのお嘘となりました お起きになって こんな闇の中にわたくしを放り出すのですか?もうまもなく夜が明けます わたくしなど 闇夜の中で、鬼にでも食われてしまえと 日が高くなってから お帰しすればわたくしが笑われます 盛りを過ぎた女が若い公達に心を奪われ 慎みを失っていると あなたは何を守ろうとなさっているのですか? ただ楽しまれよと? ただこのひと時を愛おしめと? わたくしはひとりで生きてゆかねばならぬのですあなたがわたくしの元を去ろうとも 何ゆえ そのようなことを? 先に老いてゆく者は 多くを愛してはならぬのです
亦又太心:あなたは怖くはないのですか? わたくしが何処の誰かも知らず あなたはお優しい方です 私はそれだけで 十分でございます わたくしも十分だ あなたさえ側にいてくだされば 早くに母を失い 愛に飢えた子供時代を送られた源氏の君は 今でも愛を求めてさまよう一人の童 その童の心を夕顔の君は 優しく包んで差し上げたのです そうか、そうか われは童か 何を仰っているのです 父上? でどうなるのか、その夕顔と源氏の行く末は?夕顔の君のお命を奪うこととなります ほう
亦又太心:寂しいことをおっしゃいます行かせない 誰にも渡さない 惟光 あの花は何という花だ 夕顔ですよ 人知れず夜に咲き 人知れず萎れていく 哀れな花です 一房持ってまいる ほお これは美しい 心あてに それかとぞ見る白露のひかりそへたる 夕顔の花 あなたはもしやお噂に高い 光の君ではないのですか? これは あなたの肌を傷つけはしませんでしたか? 爪がこんなにも伸びておりました いいえ、あなたは冷たくはなかったですか? 夏ですのにあんまり冷えてしまったので こっそり温かめていたのですよ あなたの温もりで もっとこちらへ もっと暖めて差し上げましょう
亦又太心:源氏の君が貴婦人との評判が高い御息所のお相手となられたことは もっぱらのお嘘となりました お起きになって こんな闇の中にわたくしを放り出すのですか?もうまもなく夜が明けます わたくしなど 闇夜の中で、鬼にでも食われてしまえと 日が高くなってから お帰しすればわたくしが笑われます 盛りを過ぎた女が若い公達に心を奪われ 慎みを失っていると あなたは何を守ろうとなさっているのですか? ただ楽しまれよと? ただこのひと時を愛おしめと? わたくしはひとりで生きてゆかねばならぬのですあなたがわたくしの元を去ろうとも 何ゆえ そのようなことを? 先に老いてゆく者は 多くを愛してはならぬのです